存在しないプラトニックラブ

雑和失礼(ざわしつれい)といいます

スモークサーモン(2021.4.11の日記)

 起きたら14:10くらいだった。

ふざけるのも大概にしろと思った。明日はゼミの顔合わせを兼ねた最初の授業だったので早く起きる必要があり、そのために今日の夜は早く寝なければならない。そのために今日は早起きする予定だった。

昨日の夜、飲みたいわけでもないのに何となくで酒を飲んだのが悔やまれた。しっかり寝たにもかかわらず起き抜けから1日中頭が痛かった。

 頭が痛かったし何より眠かった。花粉症の薬を無意識にニ粒飲んでしまい、副作用の眠気が強く出ている可能性が考えられたが、単に寝すぎなのかもしれなかった。

 母が外出から戻り、買い忘れたのか何なのか俺に「スモークサーモンと玄米ご飯を買ってきてほしい」と言う。今日はカフェで勉強するほどの元気すらなかったので、まあ散歩がてら買い物くらいは出てもいいかと思った。思ったはいいものの眠すぎて体が動かず、2時間くらいソファに寝転がってひろゆきの切り抜き動画を見ていたところ、もう妹に頼むからいいと言われた(言われそうになった)のでいよいよ家を出た。6:10だった。

 スモークサーモンは駅前のスーパーに、玄米ご飯は駅と自宅の中間にある雑貨屋に売っているので先にスーパーを目指した。スモークサーモンはスーパーの2階にあった。2種類あったので写真を母に送り、右に置いてあるやつを買うようにとの指示を得たので右に置いてあったやつを買った。少し具合が悪いので半分寝ているような顔でフラフラ歩いていたためと思われるが、店内の他の客が俺を避けながら歩いているのが分かった。

 スモークサーモンを手に入れたので次は玄米ご飯を手に入れるべく雑貨屋を目指すのだが、その経路内に本屋があったので入らないわけにいかなかった。あまり金が無い(出前館の委託契約に登録はしたが一度も稼働していないので収入は全くない)のだが、本に関する出費に関してはその場に手持ちの金がある限り惜しまなくていいかと思っているのでこれは仕方のないことだった。地下の単行本コーナーに『災害と妖怪 柳田国男と歩く日本の天変地異』という本があった。こういう民俗学系の本は反射的に手に取ってしまう。少しめくってみると、「現在の事実としての河童」と書いてあった。この11文字でもうこの本がかなり欲しくなったので買った。2200円だった。

 基本的に知りたいことは検索すればすぐに完結した知識として(ほとんどの場合無料で)手に入る現代において、本を読む人は減ったのだろうか。知らない。知ったことではないが、現代における読書は、特に若年層や精神年齢の低い中年層から必要以上に特殊で崇高な趣味として捉えられている気はする。本来は知識習得(あるいは思想発信、金儲け)の手段でしかない読書が、高度情報(化)社会の現代において、懐古的ミーハーとでも言うべき人々によって過度に形式ばったインテリ的な嗜好文化に仕立てられたと言った方が伝わるかもしれない。

 懐古的ミーハーというのは今俺が考えた言葉で、起きている間はずっとTicTokを見てぴえんが丘どすこいの介とか言っている女子高生をサブカル的ミーハーとしたところの、それとは反対の方向性をもつミーハーのことである。つまり行為としての価値が時代に左右されにくく、古めかしくも基本的に「おしゃれでよいこと」とされている文化を趣味とする自分に陶酔している人間を指す。こだわりのコーヒーを豆から淹れて椅子に座って革や布製の洒落たブックカバーに収めた単行本をすました顔で眺め、読んだ本の適当な感想をSNSで垂れ流し、積ん読だのなんだの言って休日に古本屋めぐりをして喜んでいる連中のことである。聞かれてもないのに大声で猫好きを自称する人間もこれに当たる(まあほとんど俺のことなのだが)。

 人間は頭の中で思考する際にも当然言語を用いるので、今までにインプットしてきた語彙が思考の深さに直接影響してくると聞いたことがある。そういう意味では、読書は人格形成に根本的に不可欠なものと言えるのだろう。語彙がぴえんしかない人間は、それがぴえんなのかそうでないのかという観点でしか物事を考えられないのだ。

 本も買ったので雑貨屋に向かう。インダストリアル系のこまごまとしたもの(グラスやコーヒー用具とか)からちょっとしたソファとかまでいろいろ売っている店だ。入って右に行った一角に小さめのソファが売っていた。俺は最近自分専用のソファが欲しいとつくづく思っていたので、何とはなしに座ってみた。

 俺は物欲がかなり強いので常にあらゆるものが欲しくてたまらないと思っている。機械式の高級時計が欲しいしバイクも車も欲しいし、家も欲しいし部屋も欲しい。その欲しいものの中にソファが含まれていた。自宅のリビングにはデカめのソファがあるし俺の定位置も大体決まっているのだが、俺は他人に絶対侵されない自分専用のソファが自室に欲しいのだ。

 俺の買うものは大体一人用である。欲しいものも一人用だった。だから欲しいバイクは一人乗りだし、欲しい車もクーペだ。使っているコーヒー用品は全て4杯用ではなく2杯用(一度に2杯飲むことはないのだが、コーヒー用具で1杯用というのはめったにない)である。だがソファだけは二人掛けのものが欲しかった。他人が座ることを許すつもりは一切なく、二人用のソファを一人で使いたいのだ。

 そんなことを考えながら玄米ご飯とやらをレジに持っていき、店内をうろうろして帰った。店内をうろうろしている間、今の俺は無気力だな、と思った。何もしていないのに疲れた頭で、無気力と玄米ご飯が混ざって「無気力ごはん」という単語が浮かんだ。

 

神楽坂鎖(@strong_hamster1)

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